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みっかびえりあ
四辻の記憶を子どもたちに贈る
山々の深い緑と、陽光を受けてきらめく浜名湖に抱かれた三ヶ日町。その中心に位置する四辻は、かつて宿場町として栄え、人々の営みが交差してきた十字路です。変わりゆく時代の中で、今もこの場所には、先人から受け継いだ“三ヶ日愛”を胸に、未来を照らそうと奔走する地域住民の姿があります。四辻を起点にひも解く、土地の絆と伝統、そして子どもたちへ託す想いをご紹介します。
猪鼻湖を望むみかん畑(三ヶ日町農業協同組合提供)
共助の精神を育んだ風土
浜松市の北西部に位置する三ヶ日町は、周辺地域から独立した地形の中で、古くから人々が支え合いながら暮らしてきた土地です。外部の影響を受けにくい環境だったため、互いに助け合い、地域を守る精神が育まれてきました。
その気質を物語るのが、三ヶ日みかんの歴史です。江戸中期に山田弥右衛門が紀州みかんの苗木を持ち帰ったことに始まり、加藤権兵衛により温州みかんが導入され、さらに大正期には中川宗太郎が技術指導を行いました。昭和に入り、三ヶ日みかんという名が使われるようになっていく中で、共同出荷の体制を整え、名産地として発展を遂げたのです。長い年月をかけ、力を寄せ合い産地を築いた歩みは、この土地に生きる人々の粘り強さの象徴といえます。
昔のみかん収穫期の様子(三ヶ日町農業協同組合提供)
三ヶ日の中心地、四辻
そんな三ヶ日の中心に位置する四辻(よつじ)と呼ばれる交差点は、長い歴史の中で人々の記憶が幾層にも重なり合う場所です。
かつて宿場町として栄え、姫街道の要衝だった四辻周辺は、大正から昭和にかけて役場や郵便局、農協といった重要施設が集まる繁華街でした。
この場所で生まれ育った初生衣神社(うぶぎぬ)の鈴木栄男宮司は、子どもの頃の四辻を懐かしむように目を細めます。「四辻は生活の中心で、本当に華やかな場所でした。『東の熱海、西の三ヶ日』と言われたほどで、料亭や芸者衆も多く、おしろいの匂いが漂っていたと聞いています。今は空き地が増えてしまいましたが、当時はどの通りも店がいっぱいで、活気にあふれていました」。
四辻交差点付近にはかつて遠州信用金庫三ヶ日支店があった
祭りの鼓動が響く十字路
三ヶ日の人々の結束力が最も高まるのが、毎年8月の第1金・土・日曜日に開催する「三ヶ日まつり」です。浜名惣社神明宮の例大祭であり、三ヶ日最大の神事として知られています。祭りを支えるのは、神社の氏子である6つの自治会です。
祭りの中心となる四辻には、各自治会の豪華な屋台や太鼓台、行灯みこしなどが集まり、にぎわいを見せます。笛やお囃子の音色は自治会ごとに異なり、それぞれの旋律が順繰りに披露されますが、その舞台となるのも四辻です。
昨年、自治会をまとめ上げる「三ヶ日六区連合会」の会長を務めた竹内豊和さんは、子どもの頃の三ヶ日まつりをこう語ります。「昔は四辻の通り沿いに露店がずらりと並びました。人であふれて、本当ににぎやかでしたね」。
しかし、その風景は少しずつ姿を変えてきました。かつての名物、仮装御輿は今では途絶えています。「六区それぞれが、アニメやマンガなどのキャラクターをモチーフにした手づくりの御輿を仕立て、出来ばえや担ぎぶりを競い合い、大いに盛り上がりました」。
それでも、祭りは形を変えながら続いています。竹内さんが所属する西天自治会には「あかとんぼ連」という独自の組織があり、子どもたちに笛や太鼓を教えています。「大人が一生懸命に準備し、伝統を守る姿を見せることが、子どもにとって何よりの学びになると思っています」。
少子化の影響で参加人数は減少していますが、その一方で助け合いの精神はより強まっています。「三ヶ日まつりの継続には、コミュニティの枠を超えた協力が不可欠です。みんなで力を合わせて一つになる光景を未来へつないでいくことこそ、自分たちの世代の務めと思ってます」。
三ヶ日まつりに参加する六つの地区の氏子たち
ほこてん祭の新たな挑戦
毎年、子どもたちの夏休みが始まる頃。三ヶ日まつりの2週間前にあたる7月下旬に、四辻に多くの人が集まる日があります。それが、今年で36回目を迎える「三ヶ日ほこてん祭」です。近年、この歩行者天国は新しいにぎわいを生み出しています。
「もともとは商店街の大売り出しセールがメインでしたが、前任の委員長の時に方向性を大きく変えました」と語るのは、実行委員長の内山茂樹さん。内山さんもまた、四辻が特別な遊び場だった頃の記憶を持つ一人です。「昔は木造の映画館があって、壁のふし穴からこっそり中を覗いて映画を見たことがありました。商店街に何軒もある駄菓子屋を回るのも楽しくてね。今の子どもたちにも、あのワクワクした気持ちを味わってほしい。それが、ほこてんを続ける原動力ですね。単なる買い物イベントではなく、『三ヶ日っておもしろい!』と思ってもらえる体験が、将来、子どもたちがまちを支える力になると信じています」。
ほこてん祭でイベントを楽しむ人々
内山さんは、キッチンカーの導入、地元出身の芸人や歌手を招いたステージなど、若手のアイデアを積極的に取り入れています。こうした変化を現場で支えている一人が、四辻近くの「魚兼商店」の山内章さんです。山内さんは全国各地のイベントを巡り、名物「うおかねコロッケ」を届けています。ほこてんの出店は三ヶ日の店舗だけでなく、山内さんが築いてきた全国の仲間たちとのつながりによって実現したものです。「三ヶ日の人たちは結束力が強い。若い衆とおじいさんが一緒になって酒を酌み交わし、商売やまちの未来を語り合う。世代を超えた交流がある地域です。それは自分たちで三ヶ日を盛り上げようという気概の表れ。結局、みんなが考えているのは『子どものために何を残せるか』という一点なんです」。
猪鼻湖の湖上に打ちあがる三ヶ日花火
幸せをつなぐ夏の花火
こうした今の大人たちの想いを四辻の記憶と重ねて語るのが、三ヶ日町観光協会の会長であり、三ヶ日花火大会の実行委員長も兼ねる中村健二さんです。「朝、眠そうに歩く芸者置屋のお姉さん。魚兼商店の軒先に干してあった大きなあんこう。お茶の店からは新茶の香りが漂い、『喜月堂』には種類豊富なかき氷とみたらし団子が待っていました。あの頃、親や地域の人たち、そしてこのまち全体が、十二分すぎるほどの思い出を僕らに作ってくれたんです」。
浜名湖で泳ぎ、船遊びや釣りに興じた日々。その豊かな原体験が今の自分を形作っていると語る中村さんにとって、花火大会を続ける理由は「子ども時代の自分が大人からもらった幸せを、そのまま今の子どもたちに手渡したい」という信念にあります。「三ヶ日まつりの最終日に、三方を山、南を湖に囲まれた特有の地形で打ち上がる花火は、山々に反響して肌を震わせるほどの重低音を生みます。至近距離で光と音を浴びる圧倒的な体験を、未来の子どもたちにも残したい」と語ります。
郷土への愛を次世代へ
郷土を愛する人たちの情熱は、今、改めて「観光のまち・三ヶ日」としての魅力を再発見する動きへとつながっています。その大きな役割を担っているのが、CMや映画、ドラマのロケ地誘致という取り組みです。
風光明媚な景観や、四辻周辺の裏通りに今も残る情緒豊かな佇まいは、これまで数多くの映像作品の舞台となってきました。地元の人々にとって当たり前だった風景が、“外からの視点”で切り取られることで、その中にある魅力に気づき直すきっかけとなっています。
自分たちが受けてきた以上の幸せを、未来の子どもたちへ―。四辻の記憶や夜空を彩る花火は、そうした想いの積み重ねによって受け継がれてきました。子どもたちはやがて成長し、今度はこのまちを支える立場になっていきます。そのとき、次の世代へ何を手渡せるのか。その問いと真剣に向き合う人々が、今日も三ヶ日を支えています。
●参考資料:三ヶ日町郷土の発展に尽くした人々
三ヶ日と伊勢を結ぶ神の衣
おんぞ祭りの祭礼の様子
三ヶ日町岡本に鎮座する「初生衣神社(うぶぎぬ)」。祭神である天棚機姫命(あめのたなばたひめのみこと)は、機織りの神として古くから信仰を集めてきました。ここは特定の氏子を持たない崇敬神社であり、日本で唯一、天照大御神の衣である「神御衣(かんみそ)」を伊勢神宮へ納める役割を担っています。鈴木栄男宮司の調査によると、機織りは承暦4年(1080年)には始まっていたという記録が残されています。
かつて三ヶ日が伊勢神宮の神領(浜名神戸)であった時代から、ここで織られた絹織物は「御衣(おんぞ)」の愛称で親しまれてきました。毎年4月の「おんぞ祭り」は、神御衣を伊勢神宮へ納めるための例祭です。戦後、一時的に伊勢への奉納が途絶えたものの、昭和43年(1968年)に復活。今年で59回目を数え、今も三ヶ日と伊勢を結ぶ神事として受け継がれています。
神社の象徴である「織殿(おりどの)」は、享和元年(1801年)の建築記録が残る、浜松市指定有形民俗文化財です。内部には、江戸時代から伝わる木製織機が据えられています。平安時代から形を変えず、神職が代々守ってきたこの織機は、遠州織物のルーツを今に伝える貴重な証です。しかし、この織殿は老朽化により倒壊の危機にありました。「8年前の就任当時、境内は竹やぶで鬱蒼としていました。織殿の修復は文化継承のために避けて通れない課題でした」。
鈴木宮司はチャリティーや寄付を通じて支援を募り、資金を調達。令和7年(2025年)1月、ついに竣工を迎えました。解体修理の際には飛鳥時代の陶器片が出土しており、この地が古くから三ヶ日の要所であったことが改めて示されています。
初生衣神社は今、伝統を守るだけの存在ではありません。浜名湖の未来を子どもたちへつなぐ「ブルーレイクプロジェクト」への参画や、若い世代が伝統文化に触れる機会の創出など、神社という枠を超えた活動を展開しています。悠久の歴史を次代へ託し、三ヶ日の未来を育む、鈴木宮司の挑戦。機織りの神は今、新たな物語を織り始めています。
修復された初生衣神社


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